こんにちは。狸温でございます。狸温の図書館リーディングルームは、狸温のお勧めの本をご紹介するサイトです。
本日は職場に疲れたら読む本として、プロレタリア文学の大作家小林多喜二先生の「蟹工船」をご紹介します。
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蟹工船を読む理由
蟹工船は、北オホーツク海に出てカニ漁をし、加工まで行う船です。船プラス加工工場となります。船はボロボロです。日露戦争時に病院船などに使っていた古い船を利用しています。
乗組員の多くは貧しい地域の人たちです。周旋屋(仕事を斡旋する人)の甘言にだまされて借金を背負わされた学生たちもいます。
中にはこどももいます。娼婦のような女性もいます。
皆さん、こんな辛い作業をするのも、お金のためです。お金を稼いで、故郷に帰ろうと思い乗船します。
でも、陸にあがると、博打・酒・女で散財し、再び蟹工船に戻ります。故郷には帰れません。
蟹工船では粗末な食べ物しか出ません。脚気の症状やひどい便秘に悩まされます。
狸温は、職場の仕事が辛くて辞めたくなるときに、「蟹工船」を読みます。
もちろん、現在の仕事は「蟹工船」の仕事より遙かに楽です。だから、現状が恵まれていることを実感するために読む。そんな側面もあります。
しかし、それ以上に人間関係や過酷な状況を現在の状況と比較、程度の差はあれ辛いことの発生の原因は何かを考えます。
考えて、頭を整理したら眠ります。
たいてい脳の許容範囲がオーバーして、どうでも良くなります。
突然いなくなる人
蟹工船の中には、しけ(嵐の夜)の操業のあと、翌日にいなくなった漁夫がいます。ボイラー室に隠れていましたが、2日後お腹が空いて我慢できなくなって、出てきます。
現代では、仕事に突然来なくなる人がいます。心身ともに傷ついてお休みに入る。いつ、戻ってくるか分かりません。
お腹が空いたから、出てくることもないでしょう。
蟹工船は、人が突然いなくなっても作業は続きます。代わりはいません。いなくなった人の仕事は、他の人がカーバーしていきます。
そのためでしょうか、ボイラー室に隠れていた漁夫は、監督者にシャツ一枚にされ、便所に閉じ込めれました。罰を受けたのです。
この漁夫は泣き騒いでいましたが、最後には静かになりました。
青い顔をして二度とは動かなくなります。しかし、その後も罰は続きます。船の人たちは、遺体を蹴ります。
動くのではないかと思って、そして、本当に動かなくなったことを理解するのです。
現代の世界でも、会社来なくなった人の補充がされることはめったにありません。ほかの人たちが、その人の仕事をします。
でも、狸温の実体験ですが、病気でパーフォーマンスが落ちている人に、罵声を浴びせる上司は存在します。大きな声で怒鳴ったりはしません。小声でいかに迷惑か、無能かを話します。
まるで、動けなくなった人に、水をかけるように。。。動けるときは、よく働いてくれる。助かると言った同じく口からその言葉は出てきます。
ただ、蟹工船と違い、仕事を休んだことで重い罰を受けることはありません。
いつの時代にも、病人やストレスで神経が参った人には休養が必要だと理解できない人たちがいます。
そんな人たちが多い職場では、病気で休養した人は「ずるをした人間」として扱われることもあります。その偏見が、休養を取った人に罰のようにのしかかることもあります。
蟹工船では、体調不良であっても、仕事が遅れることは許されません。
これは、現代でも同じでしょう。
とんちんかんで冷酷な幹部と有能な上司の挫折
蟹工船には、浅川という蟹工船を所有する蟹加工会社( 本社)の社員が監督者として乗っています。蟹工船に載せられるなんて、本社では大したポジションではないかもしれません。
しかし、蟹工船の中では、浅田は監督者です。この船では権力者となります。幹部と言って良いでしょう。
一方、蟹工船には船長がいます。船の責任者です。現場責任者のポジションにあります。
蟹工船は、何艘もまとまって、北オホーツク海でカニ漁をしています。
そのうちの一艘の武蔵丸が、沈没しかけます。一番近くにいた船(この小説の舞台になっている船)が助けに行こうとします。
有能な船長は、すぐに船員たちに必要な指示を出します。
しかし、監督者の浅川は、救助を阻止します。カニ漁を続けるように指示します。船長は浅川に「船では船長に従って欲しい」と抗議します。しかし、浅川は怒ります。
そして、「ぼろ船には、保険がかけてあるので会社は損をしない。蟹工船は航路船ではないので、航路法の適用を受けない。船長の指示に従う必要はない。」
船長は悔しがりますが、どうしようもありません。結局武蔵丸は沈没して、数百人の命が失われます。
浅川は、武蔵丸が沈没したとだけ、乗組員に伝えます。
現代の社会で人命より会社の利益を優先したと知られたら、その会社は社会的な抹殺を受けるでしょう。
しかし、現場の状況を理解しないで、とんちんかんな指示をする幹部社員はいます。おそらく、ご自分の威勢をしるしたいのでしょう。
通常と違う指示がでると現場の職員は戸惑います。有能な現場責任者は無力感を感じてやる気を失っていきます。そして、会社は人材を失います。
また、蟹工船では、突風が出て、浅川は「船を引き返すようにという連絡」を受けたにもかかわらず、そんなことぐらいで漁は中止できないと言います。
浅川の乗組員の人命軽視は甚だしいです。何故、そんなに会社の利益が優先なのでしょう。いや、自分の業績を上げたいのかもしれません。
自分の業績評価のために部下の健康は無視してこき使う人、現代でもいそうです。
行方不明になった川崎船(大きな漁船)が、数日後に戻ってきた話があります。その乗組員は「カムチャツカ半島でロシア人の家族に助けられた」と語ります。
最初は、自分たちと容姿が違うロシア人を警戒しましたが、その人たちの温かい態度に蟹工船には戻りたくないなと思ったそうです。
そして、顔の大きな中国人がロシア人の家族を訪ねて来て、「日本は、働く人、貧乏。働かない人、お金持ち。ロシア人は働かない人いない」と日本語で話したそうです。
最初は、乗組員たちも赤化(共産主義化)の啓蒙だと思い、警戒しました。しかし、蟹工船での辛い作業を思うと本当にそうだなと思うようになりました。
お金がある人が、必ずしも忙しく働いていない。お金のない人はあくせく働く。資本主義の姿です。
冷酷な監督者の末路
蟹工船の中に赤化(共産党)のビラがありました。監督者の浅川の横暴に苦しんで、魚無や雑夫たちはサボータージュを覚えます。
もともと、蟹工船の乗組員は、村長などが推薦するおとなしくて素直な性格な人が選ばれます。労働組合などに参加しないタイプです。しかし、過酷な労働が、この素直な人たちの反抗心を育てました。
最初のサボタージュは失敗していますが、次のサボタージュは成功してかにの獲高が少なくなり会社の儲けを減らしました。
そして、浅川と雑役夫長は責任を問われてくびになりました。
浅川たちは、会社に利用された被害者だと言い出したそうです。
なんだかな。監督者も会社も。。
蟹工船を読んで
蟹工船は、救いようのない格差社会の話です。
貧困故に厳しい労働をする蟹工船の漁夫や工員は搾取されます。
人間よりも会社が大事。資本側にいる人間はそう考えます。
現代では、蟹工船ほどひどい職場はないと思います。
しかしながら、蟹工船の浅田ほどではなくても、部下の健康軽視で会社の利益や自分の評価が優先という上司が存在することもあります。
また、劣悪な環境で長時間働くことを余儀なくされることもあるかもしれません。
それでも、働く、それが人間なのかもしれません。
蟹工船を読んで、思いにふけって、考えて、疲れたら寝る。
それがいいかもしれません。ただ、蟹工船、亡くなった人の描写とかエグいものがあります。
ちょっと、エグい描写は苦手だなという人にはお勧めしません。
蟹工船、是非読んでください。
蟹工船/党生活者改版 (新潮文庫) [ 小林多喜二 ]
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